こよみと暮らす 第五回『小満』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第五回 小満
ちょうど5月の連休のころでしょうか。さらさらと風に流れる藤の花、かなり高いところをそよいでいるように見えます。
『藤』奈良市 飛火野 Photo 井上博道
撮影されたのは、奈良公園。東大寺や興福寺など歴史の教科書でも馴染み深いお寺があり、鹿たちがのんびり過ごしている。修学旅行を思い出す人もいるかもしれません。

その一角にある春日大社は、藤の名所でもあります。藤棚から地面に届くほど房の長い「砂ずりの藤」をはじめ、20品種もの藤が栽培されています。

ひと房の中で紫色が濃い色から淡い色へ、ゆらゆら揺れる軽やかな姿を引き立てる風が吹く5月。風薫る、とはよくできた言葉で、若葉や花の匂いを運ぶ風が気持ちいい季節です。

幡のお店も東大寺からほど近いところにあり、新緑の季節はカフェの窓から一面の緑がのぞめます。

春分からスタートしたこのコラムも、5回目となりました。5月後半のこの季節は「小満」です。小麦がみのるということから、初夏のことを麦秋と呼ぶことがありますが、さまざまな作物の成長が目に見えて進む季節。郊外では、黄色い穂が満ちた小麦の畑と山を映す水田と、そのコントラストが美しいころでしょうか。

24節気はおよそ2週間にひと区切り、そう考えると、巡る季節のひとつひとつがあっという間に感じられます。
晴れた日の合間に、重たい雲がかかる“走り梅雨”という天気も、この季節の特徴です。南から聞こえ始める梅雨の知らせに、どこか心がソワソワする。今のうちに、家の掃除に衣替え、“やったほうがいいこと”はたくさんあるけれど、せっかく晴れたなら散歩に行きたい。そんな誘惑にかられる休日もしばしばです。

梅雨準備の気分を上げるために、手触りの気持ち良い服を一着確保しておくというのはどうでしょう。麻の素材のなかでも、“からみ織”という技法を用いた生地のシリーズを紹介します。
織物は通常、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が垂直に交わりながら平らな面をつくるものですが、この“からみ織”の場合は、経糸がねじれて緯糸に絡むように織り込まれているので、布表面に独特の凹凸とすき間が生じます。そのため生地が肌に密着せず、すき間から空気が抜ける。リネン特有の手触りも相まって、シャリ感が気持ち良い生地です。
生地は柔らかいですが、リネン特有のコシと光沢があって、着たときになめらかなドレープができる。透け感があるので、初夏の重ね着にもおすすめです。

着丈の短いスモックはお手持ちのタンクトップなどのトップスにも合わせやすく、長めの羽織はパンツスタイルに合わせてふんわりと腰回りをカバーできます。ワンピースタイプは蚊帳のシリーズと重ねると色合わせも楽しめます。

実はこのからみ織のシリーズ、5種類の色はすべて自然由来の染料を使っています。葉っぱや茎を煮出して色を抽出したものもあれば、虫に由来する染料もあります。

「石板」という色は、黄色のマリーゴールドと、紫系の色を出すログウッドという染料をかけ合わせて出したもの。その仕組みを知ると、グレーのなかにも、わずかな色味を感じます。

自然由来の彩りの魅力、手元で感じてみてください。

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