こよみと暮らす 第十一回『処暑』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第十一回 処暑
奈良には、古くから変わらない風景が多く残されています。

県の中部にある明日香村は、今から1400年ほど前、飛鳥時代の史跡が残る地域で、壁画で知られる高松塚古墳など、教科書に出てくる古墳や寺院を訪ねることもできます。

景観を守るための取り組みが長年続けられたことによって、万葉集に詠まれた景色を今でも体感できる場所です。
こよみと暮らす 第十一回 処暑
『八釣の秋』奈良県高市郡明日香村八釣 畝傍山・二上山遠望Photo 井上博道
八釣の里と呼ばれる集落もそのひとつ。この時期、高台から見下ろせば、青々とした稲穂や里山の民家が見える。遠くに霞む山々に囲まれた風景も、奈良らしい。

まもなく、この稲穂も重く垂れさがり、実りの季節を迎えます。暑さも少しずつ和らぐこのころ、二十四節気では処暑と呼ばれています。

残暑も厳しく、まだまだ日中は汗ばむ陽気が続いていますが、市街地でもどことなく秋の気配を感じることがあります。

夏には虫食いの穴越しに木漏れ日が射していた桜の葉も、いつの間にか黄色い色が交じっている。青々としていた自然界も、徐々に秋の色へ変わってきています。
刻々とうつろう季節や自然の色を愛でる心、気候に応じた暮らし方。日本の風土が育んだ美意識は、幡というブランドの出発点にもなっています。

生活雑貨に洋服、食など、今ではさまざまな顔を持つ幡のお店。もともとは今から34年前、手織の麻生地を使って日本の暮らしを楽しむ生活雑貨を届けようと、ものづくりをはじめました。

伝統的な色合いに染めたコースターなどのテーブルウェアは、当初から贈り物などとして親しまれ、今でも幡の定番商品です。
立ち上げの2年後から約10年は奈良そごうの店舗が、お客さまとのタッチポイントでした。奈良そごうが閉館し、あらためて自分たちの考えを発信していく場としてオープンしたのが、奈良と京都の県境、街の喧騒から少し離れた木津川にある「Lier・幡」というお店。

日本の風土に根ざした衣食住を提案していくため、オリジナルのレストランを併設。食材から季節を感じるメニューでお客さまを迎えてきました。
奈良で長く生産されてきた蚊帳の魅力に着目して服づくりをはじめたのが10年前。布巾などの雑貨ではなく、衣服として仕立てるために。柔らかい生地を裁断したり縫製したりするためにはさまざまな試行錯誤がありました。

着る人、使う人を思って、改良を重ねてきた幡の製品。お店を訪ねる人のなかには、家族への贈り物を探しに来る人も少なくありません。ちょっとしたお礼など、気持ちを伝えるのにちょうどいい焼き菓子「和調菓」のシリーズも、2016年のスタート以来、好評です。

家族にも安心して勧められるものが、きっとある。そんな期待を寄せていただけることは、わたしたちにとって、ものづくりの原動力にもなっています。
昨年からはかや製品をつくる時に出てしまう「余り布」を、細く裁断し織り上げ、バッグなどの製品をつくっています。限りある資源をできる限り有効に使う、サスティナブルの考えは、これからのものづくりには欠かせないもの。

日本の豊かな四季をいつまでも身近に感じられるように。自然や環境と共存しながら、日々よいものを届けていきたいと思います。


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