こよみと暮らす 第十二回『白露』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第十二回 白露
雑木林のうえに、ぽっかりと浮かぶ月。最近は少し日暮れも早くなりました。
こよみと暮らす 第十二回 白露
『月と雑木林』山口県下関市妙青寺より川棚Photo 井上博道
俳句の世界で、「月」といえば秋の季語です。月が詠まれた和歌は、百人一首のなかにもたくさんあります。

「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」

遣唐使として長く赴任していた阿倍仲麻呂が、遠く離れた唐の国から見える月に、故郷である奈良で見た月を重ねて詠んだ歌。この三笠の山というのは、春日大社の後方に見える御蓋山のことだそうです。

唐で見る月と、奈良で見た月。1500年前、歌に詠まれた月と、今日見上げる月。どれも同じ月だと思うと、感慨深いものがあります。
遠くに暮らす親しい人にも、会うことがままならない日が続きますが、秋の夜長には手紙でも書いてみようか。夏の暑さも少し落ち着いて、草むらから虫の声が聞こえるようなこの季節を、二十四節気では白露といいます。

朝夕、気温が下がると草木に露が宿るところから、白露と呼ばれるように、植物が身近にあると、季節を感じやすいものです。まもなく訪れる実りの季節。美味しい新米が楽しみです。

農家の方がつくってくれたお米や野菜。その苦労を知れば、おのずと、大切に食べようという気持ちが湧いてくる。幡が運営するレストランでも、なるべく食材を無駄にしないようスタッフの間で心がけています。

さらに布製品の生産でも、なるべく素材を使い切ろうと新しくスタートしたのが、余り布を使った、アップサイクルの製品づくり。岩手県にある幸呼来(さっこら)JAPANという工房と共同で、蚊帳の余り布を生かした裂き織製品をつくりはじめました。

裂き織は江戸時代中期、寒冷な気候のため綿や絹などの繊維製品が貴重だった東北地方が始まりでした。着物や布団などの古布を細く裂き、織り上げた生地のことです。生地の持つ風合いが味わい深いテキスタイルです。

今年の夏から新しく加わった、裂き織のバッグと小物。生地を裂いて緯糸にして織り上げるまで、すべてを手作業で行っているので量産が難しい。特に、裂き織の材料となる余り布は、色も形もバラバラで、裁断クズや型紙が混じった状態から、手作業で選別をするので時間がかかります。
一度にたくさんは生産できないので、少しずつ。メーカーとしては必ずしも効率的なやり方ではないかもしれませんが、できるところからロスを減らし、環境にやさしいサステナブルな「ものづくり」を探っていきたいと思っています。
もちろん「やさしい」だけでなく、「楽しい」も感じていただけるよう、デザインにも一工夫。丸くカットした皮革のポイントが、素朴な裂き織生地のアクセントになって装いを引き締めてくれます。
ちょっとしたお散歩からお仕事まで、温かな風合いの裂き織のバッグや小物を、ぜひお手元で楽しんでみてください。


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