こよみと暮らす 第十八回『大雪』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第十八回 大雪
夜から雪が降り始めた翌朝は、カーテンの向こうに別世界が広がる。見慣れた風景が白い雪に覆われ、誰も足跡をつけていない白い道には独特の清らかさがある。

雪国ではそこから長い冬がはじまります。12月に入り、季節は「大雪」を迎えました。雪に覆われた山は眠ったように静かに見えます。

一方、温暖な地域では少し雪が積もっても、お昼過ぎにはすっかり溶けて日常が戻ってくる。初雪の朝の慌ただしさも、昼の陽気には拍子抜けしてしまうほど。珍しい冬の便りを少しでも楽しもうとするのは、子どもたちのほう。通学路には、土混じりの小さな雪だるまを見かけます。

年の瀬に向かい気分も少し慌ただしく感じるこのごろですが、奈良では間もなく「春日若宮おん祭」が開かれます。880年以上途切れることなく続くこの行事は、毎年12月17日の真夜中から中心神事が一昼夜続きます。お渡り式の大名行列には子供大名行列もあり、奈良市の公立小学校は、この日午前中で授業を終えるのが通例になっています。
こよみと暮らす 第十八回 大雪
『天益寺』奈良県宇陀市大宇陀迫間Photo 井上博道
今回写真で紹介しているのは、そんな奈良の中心部から約30km南東に位置する宇陀市の風景。天益寺は室町時代に創建された寺院ですが、20年ほど前に茅葺の本堂など伽藍の大半を火災で焼失しているため、今は写真のなかにのみ、息づく景色です。

時刻は明け方でしょうか、まだ薄暗い空の下、しんしんと言う言葉がぴったりです。この天益寺は桜の名所としても知られ、春先には樹齢350年にもなる大きなしだれ桜を見に、多くの人が訪れます。

その桜も、冬には雪の下で来るべき春の準備をしています。

寒くなるにつれ、朝起きるのも億劫になりますが、支度を整えて一歩外に出てみると、顔に当たる冬の朝の空気は凛としていて気持ちいい。

今回は幡のカラーパレットのなかから、冬の空気のような清々しい色を2つ紹介します。
まずは「青磁」、緑がかった薄い青色です。その名前は、中国から伝わった焼き物の色味に由来します。その色は翡翠を連想させ、高貴な器として珍重されました。

釉薬のガラス質が、表面に水を湛えたような風合い。かつて中国の皇帝は青磁の理想的な色合いを「雨過晴天」と言い表したのだそう。

青磁の色は透明なガラスの淵にも似て、独特の清潔感があります。幡では、ふきんのほかタオルやハーフケットなどにこの青磁の色を用いています。
もうひとつは「水」。色鉛筆やクレヨンで水色というと、ライトブルーの鮮やかな印象もありますが、幡の水色はほのかな青を漂わせた色み。染色していない晒の経糸に、薄い青を染めた緯糸を合わせて織り上げています。

水は本来、無色透明ですが、海や川など空を映す水は青く見える。そう考えると、季節や地域によっても水色のイメージは変わってくるのかもしれません。白い息や、雪の形、池の氷、普段は色も形もないものたちが、目に見える姿で感じられるようになるのは冬ならでは。

曇りガラスの温かい部屋のなかでまどろんでいるうちに、腰が重くなってしまいがちなこの季節。新しい年を清々しい気持ちで迎えるためにも、すっきりとした色味のアイテムで気持ちを切り替えてみるのはいかがでしょうか。

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