こよみと暮らす 第二十二回『雨水』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第二十二回 雨水
寒が明け、暦の上ではもう春ですが、寒い日が続いています。北国では雪解けの待ち遠しいこのころ。桜の季節を目指して勉強している学生さんも、ラストスパートでしょうか。

雪や氷が少しずつ雨に変わる兆しを見せることから、二十四節気では、この時期を雨水と呼びます。澄みきった晴天の冬空も、少しずつ春の天気に移り変わろうとしています。
こよみと暮らす 第二十二回 雨水
『しずく』Photo 井上博道
梅の花が一つまたひとつと開いて香りを広げ、桜の蕾も存在感を増しています。ふわふわの産毛に包まれた蕾は、春先に大きな花を咲かせる木蓮の木。

枝だけを残した紫陽花も、その先端から新しい葉の緑が顔をのぞかせています。

奈良ではこのころ、東大寺で行われる「修二会(しゅにえ)」の話題が春を知らせます。

修二会が「お水取り」という名前で親しまれているのは、お供えのため、二月堂の井戸から「お香水」汲みあげることによるもの。このお香水は若狭の国、つまり現在の福井県から地下を通って、東大寺へ届けられるという伝説があります。

奈良時代から、絶えることなく続けられてきたこの伝統行事は、二月堂の回廊を囲む荘厳な松明や、椿の枝に飾り付けられる造花の細工の細やかさなど、独特の美しさを感じさせるものです。

同じく、東大寺にある正倉院の宝物も、今に残る古の美の世界を伝えてくれます。

華やかな螺鈿細工の施された楽器やうつわ、花鳥の文様が彩る染織品など、唐など西方の影響を色濃く感じさせる表現も多く見られます。

幡ではこの正倉院宝物の美しさをお手本に、現代のライフスタイルになじむテキスタイルデザインをお届けしています。奈良のまちで愛されてきた麻の生地とも相性のよい紋様。この春からリニューアルした、新しいシリーズ「花紋」をご紹介します。

まずは、しなやかな曲線の唐草紋様。デザインのもとになっているのは、花氈(かせん)と呼ばれる花紋様の敷物です。

麻の生成りの色とも調和する茶系をベースに、青みの差し色がポイントになっています。桜色の生地と合わせたバッグやランチョンマットは、少し柔らかな印象が加わります。

続いては、宝相華(ほうそうげ)。モチーフとなっているのは、透し彫りによって花紋様を描いた銅製の器。一面に絡み合う蔓紋様が、レースのような華やかさを持つ。グレーを基調とした色味で、モダンに仕上がっています。

バッグなど大きな面で見ても映えますが、紋様の一部を切り取ってつくった小さな雑貨では、また細部の違った表情が見えてくる。

最後に紹介するのは更紗です。ほかの2点に比べると、耳馴染みのある言葉かもしれません。

更紗というのは、もともとはインドに起源を持つ染織品で、木綿に花や鳥などの紋様を木版で染めたもの。日本をはじめ世界各地で独自の表現に発展していきました。

今回は真っ赤な鶏頭の花をモチーフに、背景には梨地と呼ばれる不規則な点紋様を施しました。よく見ると、それぞれの花の形や向きが違っていて、テキスタイルのなかにリズムが生まれ、どこか華やぐ気持ちに。

黄色の生地を合わせたアイテムは、この時期の気分にもちょうどいい温かな雰囲気。懐紙入れやポケットティッシュケースなど、これから来る花粉の季節、散歩のおともにも、ぜひ。

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