こよみと暮らす 第十五回『霜降』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第十五回 霜降
たわわに実った柿の実。季節は実りの秋を迎えました。

市街地でも、庭先に柿の木があるお宅を見かけることはありますが、こんなに大きく勢いのある枝ぶりはなかなか珍しい。
こよみと暮らす 第十五 霜降
『柿 土塀』奈良県奈良市白毫寺町 民家Photo 井上博道
写真は、奈良市の白毫寺町。以前「秋分」の回で、萩の花が咲くお寺を紹介したあたりです。年季の入った土塀と、秋の澄んだ空、その間で柿の鮮やかな色味が映えています。

柿は、古くから俳句などにも読まれてきた日本古来のフルーツ。奈良も柿の産地として有名ですが、「Kaki」というのは、海外でも通じる名前なのだそう。

そのまま食べられる甘柿は、歯ごたえがあるものも、熟して柔らかくなったものも、どちらもおいしい。渋柿は干すと、甘柿以上に糖度が増す。さらに未熟な渋柿を発酵・抽出した柿渋は、防水防腐の作用があるため、塗料や染料として工芸の世界で古くから重用されてきました。柿の葉っぱはお茶などにも使われるほか、古くは和歌などを書く短冊としても使われていたとか。

また干し柿というと、古民家の軒先にずらりと吊るされた様子を思い浮かべますが、丸ごと干すだけでなく、ほかのドライフルーツのようにスライスして乾燥させるやり方もあります。甘みが強すぎず、ヨーグルトなどにもよく合います。

空気がひんやりするにつれて食欲が増していくこのころ。二十四節気では「霜降」を迎えます。その名前の通り、霜が降りる季節という意味ですが、実際この時期に初霜を観測するのは北海道や東北地方の一部だけ。奈良県をはじめ本州のほとんどの地域では、本格的な冷え込みはまだもう少し先になりそうです。

とはいえ、着実に近づいてくる冬の気配、暮らしのなかに温かい色味を取り入れてみるのはどうでしょう。

今回は前回に続いて、幡のかやシリーズのカラーパレットから、この時期の装いにピッタリな色を紹介します。
まずは赤と黄色の中間色「柿」。英語で言えばオレンジ色ですが、どちらもフルーツの名前なのがおもしろい。日本では柿の色というと、渋柿で染めたような茶色を指すこともありますが、幡で扱っているのはよく熟した実の色のほう。これを特に「照柿色」と分けて呼ぶこともあるそうです。

その柿色など鮮やかな色味と相性が良く、やわらかな印象を添えてくれるのが「香色」。ちょっと赤みがかったクリームのような色味です。
この香色の由来は、香料に使われる丁子という植物を染料に用いた色味であることから。香りの色というと、なんとも想像力をかきたてる不思議な名前です。

幡では、この色味を出すため、生地の製造過程で一工夫を加えています。ほとんどのカラーは布地を織り上げてから染めるのですが、この香色は、経糸は白、緯糸は先染めの糸で織り上げることにより奥行きのある色を表現しています。

主張しない柔らかな色だからこそ、ニュアンスにこだわりました。

季節を問わず活躍する色ですが、この時期特に取り入れたい暖色を、そっと引き立ててくれるはず。モノトーンのコーディネートに取り入れると、全体を少し優しくまとめてくれます。

温かな色味も、美味しい食べ物の話題も、秋の楽しさはこれからのような気もしますが、次回はもう、冬のはじまりです。

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