こよみと暮らす 第二十回『大寒』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第二十回 大寒
低く柔らかく差し込む朝日が、水面を照らす風景。夜明けの空を映して、全体が鈍い銀色に輝いています。風が吹いているのか、水面は細かく波打ち、一見すると雪原のようでもある。いかにも冷たい空気が感じられそうな、冬の三方五湖(みかたごこ)です。
こよみと暮らす 第二十回 大寒
『三方五湖』福井県三方郡 Photo 井上博道
福井県南部の沿岸部に連なる5つの湖は、海水や汽水、淡水など水質や深さが異なることから、水の色がそれぞれ違って見えるという特徴があります。また、そこに生息する生き物も多様で、カモなどの水鳥が集まることから保護区にも指定されています。

冬場に飛来する渡り鳥を「冬鳥」といい、白鳥やカモなどがその一種。都市部の河川や公園などでも姿を見かけることがあります。

彼らにとって日本の水辺は冬をしのげる温暖な場所。私たちが、日に日に寒くなる空に縮こまっていても、水面を漂う白鳥は優雅な佇まいを見せています。フワフワの羽毛は、空気を含み浮き袋の役目も果たすのだとか。

植物が春に向けてエネルギーを蓄えるため、しんと静まりかえった冬場。水辺に視線を向けてみると、この時期らしい情緒が感じられます。

温暖な平野部にも積雪のニュースが届くようになるこのころ、季節は「大寒」を迎えます。見るだけで身震いしてしまいそうな字面。1年のなかでも最も寒さが厳しい季節です。

池や小川に張る氷、地面からにょっきり出てきた霜柱、軒から下がる氷柱。ゆっくりと上ってきた朝日が、昼ごろになって氷や雪の表面を溶かすと、光を反射してキラキラ輝いて見えます。

雪に覆われた景色を銀世界と呼ぶことがあるように、水がさまざまに姿を変えるこの季節は、静けさのなかに独特の光や美しさが感じられます。

今回は、幡のカラーパレットのなかから、この時期の空気に似た色をふたつ紹介します。
まずは「銀ねず」。やや青みを帯びたグレーの色味です。和の色名では、特に、茶色、灰色、藍色系の色味が細分化されています。これは江戸時代に庶民の着用が許された、地味な色合いのなかで、どれだけ多様な表現ができるかという工夫から生まれたもので、なかでも茶色と灰色の多いことは「四十八茶百鼠」と言われるほど。

制限があったからこそ微妙な色の差異や、ニュアンスの違いを愛でる美意識が育まれたのかもしれません。

幡では、バスタオルなどベーシックな日用品としても人気の高い銀ねず。プリントのかやキノミシリーズでも、さりげなく楽しめる色味です。
続いては、真っ白な「晒」。もともとは糸や織物などの繊維から不純物を取り除き漂白した状態を指す言葉です。手ぬぐいや肌着などに用いる白い木綿生地を指して「晒」と呼ぶこともあります。

幡のアンダーウェアにも「晒」のシリーズがたくさん。蚊帳は静電気が起きづらい素材なので、タイツを履く冬場には特に、かやペチコートが活躍します。

現代のアパレルでは晒というと化学処理が主流ですが、雪深い地域ではもともと、降り積もった雪の上に反物を広げて、日光と雪解けのオゾンで漂白する「雪晒し」が行われていました。ずらりと並べた反物の色と、あたりを覆い尽くす真っ白な雪の対比が美しい風物詩です。

草木や花の色が戻る春まで、あと少し。次回はもう立春です。

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