こよみと暮らす 第十三回『秋分』

こよみと暮らす
こよみと暮らす 第十三回 秋分
春のお彼岸のころにはじまったこのコラムも、ちょうど半年が過ぎて「秋分」を迎えようとしています。

この日を境に、昼よりも夜が長い季節がはじまります。9月のことを長月と呼ぶのは「夜長月」からきているそう。十五夜の満月、今年はきれいに見えるでしょうか。
こよみと暮らす 第十三回 秋分
『萩の道』奈良市白毫寺町 白毫寺Photo 井上博道
暑さ寒さも彼岸まで。秋の長雨を境に、空気が涼しく感じられる日が増えてきました。雨上がりに空を見上げれば、うろこ雲。サルスベリの花も季節の変わり目を伝えてくれます。夏場は雲も花もどーんと大きかったけれど、秋は小さくささやかな表情が集まるように景色をつくっていく。

この時期、奈良の東山にある白毫寺では、石段に沿って群生する萩の花が見頃を迎えます。石段を上りきった境内からは奈良市街地を一望できるこのお寺、参道の石段はなだらかに長く続いていきます。

その両脇に寄り添うように咲く、萩の花。丸みを持つ葉と小さな花弁が、枝垂れるように咲く姿はとても可憐で、秋の七草のひとつにも数えられています。

秋のお彼岸にお供えするお餅を「おはぎ」と呼ぶのはこの花の形が小豆に似ていることから。春のお彼岸にいただく「ぼたもち」という名前も、牡丹の花から来ているという説もあります。

食べ物のエピソードと結びつくと途端に印象的にインプットされるのは不思議なもので、春の七草はセリ、ナズナ…と口に出してみると最後まで言えるのに、秋の七草のほうはつい忘れてしまいがち。
赤紫色の花をつける葛の花。根から取れるでんぷん質は葛粉の原料となり、くず餅や葛根湯など昔から馴染み深いお菓子や薬に使われます。また茎の部分は繊維として、日本では葛布という織物に使われることもあります。ラオスではこの糸を編んで網状の生地をつくる手仕事が今も伝えられています。
幡では、このラオスの葛ニットをデザインに取り入れて、リネンのバッグをつくっています。モノトーンのシンプルなデザインに合わせた葛ニットは、バッグの形に合わせて手作業で輪編みにしているので、はぎ目なく、すっきりと仕上がっています。
網目の一つひとつを手作業で編んでいくだけでも、時間がかかりますが、この葛でつくる布は、糸をつくるまでの作業にも根気がいります。茎を煮出して取り出した繊維を繋ぐ工程も人の手で行われています。

機械でつくったような均一な質感ではないけれど、一つひとつ、人の誠実な仕事が積み重なってできた生地。そこに柔らかさを感じられるのが、この葛ニットの魅力でもあります。

丈夫な繊維でありながら、細かな網目が繊細な雰囲気も感じさせてくれる不思議な風合い。モノトーンなので、どんな装いにもさりげなく合わせられます。
幡ではほかにも、素材の感触を生かしたモノトーンのバッグのシリーズをご用意しています。シックでシンプルなだけでなく、どこか柔らかな雰囲気をつくり出す織地や刺繍の手触りを、ぜひ楽しんでみてください。


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